MC=Valuationについて函館新都市病院 薬剤科長 斎藤裕一氏に活用事例をお伺いしました。
函館新都市病院
- 病床数:155床
- 診療科:12科
函館新都市病院や薬剤科の特徴と、地域医療における役割
当院は北海道函館市にあり、道南地区における脳神経外科の基幹病院、そして函館市の2次救急を担当する病院として日々診療をおこなっています。脳神経外科領域においては急性期から回復期までシームレスな医療を提供しています。地域では、道南地区の脳卒中診療に携わる急性期病院・回復期病院、維持期の施設、行政、保健所などの関係者が一堂に会し定期的に情報連携を行う道南脳卒中地域連携協議会の事務局を務めています。
薬剤科は現在4名の薬剤師が在籍しており、他職種との連携を密に図れていることが特徴です。薬剤科の目の前に医局があるため、気軽に医師が訪れることが出来る雰囲気であり、薬剤に関する報告や確認、相談など、気さくに行っていただけています。また、当院は脳卒中の患者様が多く、急性期から回復期までを担っていることもあり、複数の職種の方が患者様の在宅復帰をサポートしています。他職種連携によりチーム医療が効果的に促進されていると感じますし、何よりコミュニケーションが多いことで楽しく業務が出来ています。
データ分析の進め方に難航していました
薬剤科は少人数で業務を回しているため、以前は患者個々の介入に終始していました。通常業務を行いながら、情報収集や薬剤に関する詳細な分析・議論を行う時間を確保することが難しい状態にあったため、「限られた時間の中でもスムーズにデータ確認が出来て、その情報を共有出来るツールがあればいいな」と日頃より思っていました。
抗菌薬に関わる分析として、他社の分析サービスにも登録していましたが、使いこなすのが難しいと感じていました。データの確認だけではなく、抗生剤の質を判断していくことが伴うため、利用する薬剤師に相応の知識が必要であることや、比較の際の数値の捉え方が重要になってくるためです。
後発品の集計に関しては、医事課がサポートしてくれていました。当時はEFファイル等を用いて手集計で数値を出していただいていたこともあり、とても手間がかかっていたと思われます。しかし、抽出された数値を用いた他部署との情報連携は、十分に出来ているとは言えない状態でした。
データ分析~情報共有を簡便に行えると判断し導入
以前よりチーム医療を進める上で、薬剤の使用方針を示すことや伝えることの難しさを感じていました。このような場では根拠に基づく数字を用いた説得力のある説明が求められます。そのためには病院全体の状況を俯瞰し、薬剤が適正に使用されるための正確な数値を把握しなければいけないと感じていました。
MC=Valuationのサービスが開始された際に案内が来て、データ分析から情報共有までを簡便に行えると判断し「これは良いな、まずは使ってみよう」と思いました。導入をしてみて実際に使用してみると思った通りのサービスで、手間なく分析が出来て、簡単に情報共有を行いたい自分にとって必要なツールであると強く実感しました。
現在は、院内の薬事委員会(薬事医療器材適正化委員会)の資料作りや、薬剤科の方針決めのためにMC=Valuationを使用しています。医事課や事務方も、MC=Valuationと同じデータソースを用いた分析サービスの「JMDC QI」を使っているので話が早く、色々な情報が共有できるようになりました。MC=Valuationでも医事課向けの指標が確認出来ますが、どのような疾患の患者さんが、いつ来院されているのかを過去と比較出来るので、薬剤科からも経営目線の確認が出来て面白いですね。
各指標の使い方
<後発品医薬品数量割合>
MC=Valuationを使用する中で如実に成果が出ているのは、「後発品医薬品数量割合」の指標を用いた後発品の使用率だと思います。指標は約2ヶ月の推移で見ています。奇数月に薬事委員会があり、その際にジェネリックへの切り替えの提案を行い、随時切り替えているので、そのタイミングに合わせています。指標では、後発医薬品数量割合や規格単位数量の推移を確認し、薬品毎の規格単位数量値から、切り替えられる薬品が無いか考察しています。
後発品使用量を上昇させていくために、指標にて規格単位数量を確認するだけでなく、加えて持参薬の鑑別情報から、同成分のうちどの品目の薬を持参されているのか傾向を確認しています。持参薬の確認も行っている背景としては、後発品の供給が厳しくなったことで、地域ではどの様な工夫をしているのか、どんな薬であれば手に入るのかを確認する時に、持参薬情報がいいヒントになるためです。患者様の持参薬情報から、調剤薬局ではどんな医薬品が先発品に戻されているのかなど常に傾向を把握しています。
指標から抽出した自院の後発医薬品数量割合や規格単位数量の推移と、持参薬から考察した地域の傾向を併せて可視化し、薬事委員会用の資料を作成しています。積極的に後発品に変えるスタンスを保ちながら、薬剤科から積極的な提案をすることで、院内での後発品への変更を促進し、後発品の使用率を伸ばし続けています。月2回行われている医局会(医師のみが集まる会議)にも薬剤科は参加させていただき、薬剤科からの情報報告と提案により、医師の理解を広げていっています。
<AMU情報・外来経口抗菌薬処方状況>
当院の感染対策を担う委員会は、感染防止対策委員会とICT委員会があります。現在は情報共有の頻度を増やす為、委員会とは別に「ICTカンファレンス」と名付けたコアメンバーの集まりを週1回行っています。このチーム医療においては、薬剤科からも根拠に基づいた介入を行っていくため、MC=Valuationの「AMU情報」より抽出した抗菌薬の使用状況や推移と併せて、TDM対象薬や注射の広域抗菌薬を使用されている患者さまの詳細な情報を、培養の有無やバイタルサインと検査値の推移、使用に至った経緯などを提示し議論しています。
地域の感染対策の合同カンファレンスにも参加していますが、その際もMC=Valuationを集計に用いていることを報告しており、院内外問わず活用しています。
AMU情報の指標では、薬品系統別に絞って確認しています。視覚的に比較するために、薬品毎に確認したいところではありますが、どの種類が多く出ているのか、全体の傾向を知る上ではすごくわかりやすいと感じています。
抗菌薬は、数年間推奨すると耐性菌が出てきて、同じ薬品の使用はなかなかうまくいかないことがあります。効果のある薬品をバランスよく使用するのが適切なやり方だと感じていますし、全体的な使用状況を把握する上で簡単にデータが確認出来るのはありがたいですね。医師が変わった時にも使用状況が異なるケースがありますので、単月毎ではなく年毎にも比較を行い、医師の傾向も加味した確認をとっています。
脳外科中心なので、状況により特定の薬品系統で多量の処方が出ることがありますが、そういった場合でも、集計数値だけを見て把握せず、数値の表す意味を適切に解釈し状況を正しく把握するように心掛けています。
外来における経口抗菌薬の処方状況としては、当院は診療科の内容や採用薬のラインナップからも、そこまで抗菌薬は使用していない状況にあります。MC=Valuationの「外来経口抗菌薬処方状況」の指標で処方率や処方内容が適正値であることを定期的にモニタリングしており、それを根拠に、外来における抗菌薬の介入優先順位を低く設定し、入院における介入を優先しています。
<せん妄リスク患者状況>
せん妄対策としては、院内に認知症ケアチームがあります。
以前チーム内で、「転倒の発生は睡眠薬に関連しているのではないか」と議論されたことがありました。まず薬剤科としては、せん妄ハイリスク薬の処方量が多いのではないかと危惧したのですが、実際のデータを確認するとそうではないことが分かりました。以前より薬剤科はベンゾジアゼピン系を当たり前ながら推奨しておらず、他の薬品との組み合わせを提案していた時期もあり、処方量の経過をデータで確認して、問題がないことを提示しました。薬剤課にて睡眠薬が関与していないことの確認が取れたため、次は看護部にて転倒の発生原因を探っていきました。そこでベッド周りの環境整備と抑制の優先順位を見直す対応がとられ、その影響で現在も薬を使わなくて済む状況になっています。
MC=Valuationでは、0剤・1剤・2剤…と服用薬品数毎の投与状況や平均入院日数を確認しているのですが、0剤=処方していない患者様の数が突出して多いことが確認できています。ベンチマークと比較しても割合が低く、ベンチマークはあくまで指標として捉えていますが、当院が脳外科中心である状況を加味しても、薬剤科の深い介入は不要であると判断し、認定看護師へ薬剤科の状況と考えを伝え、理解していただいています。
現在はそういった状況から、薬剤科は積極的な介入を行っておらず、MC=Valuationを用いた定期的なデータ確認と状況把握のみ行っています。
当院の状況や勤務イメージの説明時にも使用しています
学生向けの就職説明会でもMC=Valuationを用いた説明を行ったことがあります。その時は当院の状況を把握いただくため、後発品数量割合の2年分のデータ推移をMC=Valuationのグラフ画面を用いて提示しました。
当院は少人数の薬剤師で現場を回しているので、どのように調剤や病棟以外の時間を捻出しているのか疑問を持たれるのではないかと感じたため、MC=Valuationの様な薬剤科としてデータ分析が出来るツールも適切に使うことで、通常業務の他に、集計分析や資料作りの時間がとれていることを伝えました。情報を可視化して正しく判断すること、そして他部署へ情報連携する事がいかに大事なのかを知っていただけたのではないかと思います。
PDCAサイクルの構築へ
MC=Valuationを導入したことで、手間なく薬剤科が確認すべき項目が自動集計され、グラフデータとして可視化した内容を、他部署に情報連携出来る様になりました。薬剤科が取り組んだ内容に対して振り返りが簡単に行えることは、次の動きを考える上で重要な役割を担っています。MC=Valuationは分析を行うだけのツールではなく、薬剤科からの情報発信を手助けするツールであると実感しています。